カテゴリー
地方自治

「ひとり親」支援政策の現状と課題


放送大学大学院『福祉政策の課題』を契機に作成した文章である。ある自治体独自の施策を批判的に検討したもの。

子育て支援ネットワーク事業

自治体の甲市の「子育て支援ネットワーク事業(仮称)」の要綱は次にようになっている。

※特定を避けるため、一部改変

(趣旨)

・市は依頼者と協力会員を募り、ネットワーク化するとともに、その委託関係をあっせんする。

(定義)

依頼者:12歳到達年度末未満の子を養育する者をいう。

・協力会員:元保育士や子育てを終えた世代の者であって子育てに協力したいものをいう。

(利用条件)

・依頼者から協力会員へ1時間あたり300円の料金を支払うものとする。

(その他)

ひとり親、生活保護世帯等については、月額1万円を上限にした補助金を支給する。

この事業は、「依頼者」と「協力会員」として組織化することにより、保育園への送迎等※1の育児につき各会員を結びつけ、ネットワーク化するものである。「ひとり親世帯に対する施策」という訳ではないが、ひとり親等がこの事業を実施する場合に月額2万円を上限にした補助金が支給されることをふまえれば、ひとり親に対する独自の配慮がされている施策である評価できるだろう。

課題-ひとり親世帯を画一的に捉える姿勢

母子家庭の就労率の高さ※2に伴う育児の困難さや雇用形態の非正規雇用化という課題※3から考えれば、「ひとり親」の支援をしようとする甲市の姿勢は評価できる。その上で、この事業の問題点としてまず指摘したいのは、ひとり親を画一的に捉え、一律に対象としている点である。

第1に、補助金の交付に際し、所得要件を確認しないことである。父子家庭の方が母子家庭より所得が高い※4という結果が明らかであるにもかかわらず、所得制限を設けずに一律の補助としていることは、限られた予算による補助が「本当に援助を要する者」に届かない結果になりかねない。そもそも論になるが、補助に関し所得要件を設けない制度設計について、納税者へ合理的な説明ができるか疑問が否めない。

第2に、制度利用に際して世帯構成を確認しないことである。

  • 「ひとり親」と「それ以外の世帯」
  • 「ひとり親の中でも祖父母と同居している世帯」と「そうでない世帯」
  • 「就労するひとり親世帯」と「時間のある生活保護受給世帯」

これらの世帯では、育児の援助を要する時間の長短に差があるところ、甲市の制度では、この差異が制度利用に反映する建付けという訳ではなく、「ひとり親」であれば一律に取り扱っている。

以上から、この制度は、最も援助を要すると思われる「ひとり親と子のみの2人世帯であって、かつ低所得の世帯」に対しては、助成金の他にも、料金に上限を設ける等の制度も考えられ、課題を残している。

以上を踏まえて総括すれば、甲市の「子育て支援ネットワーク事業(仮称)」は、ひとり親の援助に関し最低限の配慮が認められるが、制度の粗さは否めない。当局には、運用実績に基づく制度の精緻化が求められるところである。

最後に、シングルマザーの長時間労働化と育児時間※5の減少が子の情操への影響が考えられることをふまえれば、当局においては、ひとり親の育児環境それ自体の対応というマクロ的・長期的な政策立案が求められる。

この意味で、この事業は、日々の育児に難儀する者の援助という対処療法的なものであり、決して最適解というものではないことを認識しなければならない。
(以 上)

参考文献

金川めぐみ「日本におけるひとり親世帯研究の動向と課題」(経済理論,wakayama economic review(369),2012,9)

  1. 保育施設等への送迎、始業前・終業後の預かり、児童の突発的疾病の際の預かりなど。
  2. ブラッドショー・埋橋孝文「ワンペアレント・ファミリーに対する税・社会保障給付パッケージ―20ヵ国国際比較を通して―」『季刊家計経済研究』33号(1997)62頁
  3. 阿部彩・大石亜希子「母子世帯の経済状況と社会保障」(国立社会保障・人口問題研究所編『子育て世帯の社会保障』(東京大学出版会,2005)所収
  4. 金川めぐみ「地域社会と福祉法制」大曾根寛ほか『福祉政策の課題―人権保障への道』(放送大学大学院,2018)所収 59頁
  5. 山田亮「父子家庭における仕事と家事の両立問題―経済的問題を中心に―」『流通科学通信No.89』(1999)79頁
カテゴリー
地方自治

DXの定義

少し前、「自治体の喫緊の課題」といわれ始めたのが「DX」である。

DXとは「デジタル・トランスフォーメーション」のことであり、2004年にスウェーデンのストルターマン教授によって提唱された概念である。その内容は「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」ことをいう。

と、多くのDXの入門書には書いてある。ちなみにストルターマン教授は論文を発表した翌年にはアメリカのインディアナ大学に移籍している。

「DX」を唱えた記念碑的論文の題名は「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」。情報技術とよい生活というものである。あらゆるものがデジタル技術と結びつき、その時点で思いもつかなかったことができるようになる、という趣旨の論文であったという。

日本では、この概念はどう浸透したか。これに大きな役割を果たしたのは、経済産業省の「DXレポート」である(2018年9月)。

ここでは「2025年の崖」という言葉が使用される。この頃には、基幹系システムのサポート終了やIT人材の引退による人手不足の顕在化し、レガシーシステムの刷新が必要について警鐘を鳴らした。

DXレポート

国、自治体、民間企業は、現在、このDXという大きなうねりの中で翻弄されているのである。

参考
「特集 経営改革の最終兵器 DXって何?」『日経ビジネス』 2020/03/30号, 28〜33ページ

inserted by FC2 system